サンゴ礁とは

水没する環礁の島々

 マジュロ環礁

マジュロ環礁

環礁というのは,サンゴ礁だけがリング状につながったもので,海面に出ているのはその上にできた標高2〜3m,幅500mほどの島だけです。 環礁では,こんな島の上に人々が住んでいます。こうした環礁は世界に500近くあり,とくに太平洋に多く分布しています。 マーシャルやキリバス,フランス領ポリネシア,モルジブなど,国土のほとんどすべてが環礁からなる国もあります。 環礁の島の標高は2〜3mですから,今世紀中に起こることが予測されている50cmの海面上昇でも,外洋の波が島に直接打ちつけるようになって,島が水没してしまうことが危惧されています。

 

こうしたことから,護岸やテトラポットなどの工学的な対策が検討されています。 しかし,地球システムという視点から見ると,これまでの議論で忘れられていた点がいくつか浮かび上がってきます。 工学的な対策は,環礁の島の形成が波などの物理的過程だけによってできると考えています。 しかし,環礁の島の成因を考えるにはそれだけではなく,サンゴ礁の生物・化学的な過程,さらには環礁の島の上に住む人間との相互作用も考えなければならないのです。

 

環礁の島々を作る砂は,その沖側にあるサンゴ礁で作られたサンゴや有孔虫(星砂もそのひとつ)の石灰質骨格のかけらです。 こうした生物が元気に生きていなければ,島を作る砂の供給もストップしてしまいます。 サンゴ礁はまた,自然の防波堤の役割も果たしています。 つまり,海面が上昇してもサンゴ礁が健全であれば砂の生産も防波堤としての機能も維持されて,環礁の島は海面上昇に追いつくことができるのです。

 

さらに,環礁の島はココヤシやパンの木など様々な植生におおわれていますが,こうした植物が根をはって土壌を作ることによって,砂でできた島の地形を安定化しているのです。 多くの植物は,果実を食用にしたり,幹をカヌーとして利用したり,葉を屋根をふくのに用いたりと,様々に利用されています。 そしてこれらの植物はいずれも,島に住む人間が持ち込んで大切に管理してきたのです。 つまり,島に居住する人間の植生管理システムが,持続可能な資源の利用と島の地形の安定化との両方に役立っていることがわかりました。

 

ところが,いくつかの環礁では都市化が進んで,自然とその管理システムがすっかり破壊され,サンゴはすっかり死んでしまいました。 植生も荒れ果てて,行き場のないゴミがいたるところに散らばっています。 サンゴ礁の健全度と植生管理システムの崩壊は,環境変動に対する環礁の島の対応力を著しく弱め,海面上昇に対する水没の危機を高めます。 サンゴ礁や植生などの生態的要因,自然と人間との相互作用が,環礁の島々の地形と資源の維持に大きな役割をもっていることを評価することができれば,サンゴ礁や植生の再生によって環礁の島々を守ることができるはずです。 こんな視点から,現在太平洋の真ん中のいくつかの環礁で調査を進めています。


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